「経営計画書」は、「経営の設計図」ではない
税理士で未来会計コンサルタントの西村です。
この業界に入り十数年間、数百人の経営者を拝見して感じることがあります。
それは、
「経営計画書」を「経営の設計図」と思ってしまうと失敗する。
ということです。
「経営計画書」は、家を建てる時の設計図にたとえられます。
よく、
「設計図があるから、家は建つんでしょう?それと同じで経営にも計画書が必要なんです!」
と言われます。
もちろん、その通りなのですが、「経営計画書」を「設計図」だと思ってしまうと、「経営計画書」を作るハードルが高くなってしまうのです。
「経営計画書」と「家の設計図」では、劇的に違う点が一つあります。
何だと思いますか?
・・・
・・・
・・・
それは、
「経営計画書」は計画通りいかないのが当たり前!
「家の設計図」は図面通り作るのが当たり前!
だということです。
経営者の方なら100%わかっていただけると思うのですが、
経営がすべて「計画通り」行くことなんてありえません。
ところが、経営者の方に、
「経営計画書を作りましょう!」
と、提案すると、
「どうせ、計画通りにはならないから・・・」
とおっしゃられる方が実に多いです。
そうなんです!
計画通りいかないから、「経営計画書」を作必要はない
という方が多いのです。
このような方は、「経営計画書」を「家の設計図」と同じように
考えているのです。
では、計画通りいかないのに、なぜ「経営計画書」は必要なのでしょうか?
つまり、「経営計画書」を作る理由ですね。
僕は3つあると考えています。
一つ目は、
「未来を思い描くため」です。
計画を立てる必要がないとおっしゃられる方に、
「例えば、昨日よりも、先月よりも、昨年よりも、売上・利益が上がっているので、経営には問題は無いと思います。だから、計画は必要ないのではないですか?」
という方がいらっしゃいます。
私の意見は、「短期的には、それでもいいけど・・・」という意見です。
昨日より、先月より、昨年より売上・利益を上げて、その先に何があるのですか?
ということです。
10年後は、どうなっている(どうなっていたい)のですか?
それを従業員さんに伝わっているかも含めて、描けていますか?
ということです。
もちろん、昨日より、先月より、昨年より、売上・利益をあげることは大切です。
しかし、昨日より、先月より、昨年より頑張ったらどういう未来が待っているのか?
会社は、自分は、自分の家族はどうなっているのか?
また、経営者が頭の中だけで思い描いている将来のビジョンのために、短期的には利益にマイナスになることでも、やらなければいけない投資もあります。
そうした時、周りの人(従業員、取引先、金融機関、家族など)は、経営者がどんなことを
考えて、どうしていきたいのかを知らないととても不安になります。
つまり、経営者が目指している未来を、周り(自分へも含めて)に示す必要があるのです。
二つ目は、
自分の考え・イメージをいったん外に出してみることで、客観的になれる
からです。
人間の頭の中は、非常にたくさんの情報で埋め尽くされています。
特に経営者には、日々、情報が入ってくるため、頭の中は常に混とんとしていると思います。
だからこそ、それらを言葉にしてみることは非常に効果があります。
私は、あまり直感的に意思決定ができないタイプなので、様々なことを考え、シミュレーションし、メリットデメリットを洗い出さないと、判断ができません。
それでも、実際に言葉にしてみると、実にシンプルなことで悩んでいたのかとか、結局やることは一つになるよねということがわかってきます。
頭の中では、いろいろなアイデアが浮かんできて、すべてを整理しないとなにも決められない!と思うのですが、実際に書き出してみると、実はたいしたことはないことで悩んでいたことに気づかされます。
あとは、自分の考えが、言葉になっていることによる安心感ですね。
これなんかは、私が実際に体感していることですが、お客様や社員から質問を受けた時、「なんだっけな?」思うことでも、すべて経営計画書に書いてあるため、経営計画書を見ながら回答することができます。
そして、回答していくうちに、その当時の心境や、言葉に秘めた想いも思い出すことができ、知らぬ間にアツく語っている自分がいるのです。これは、本当に不思議な感覚で、人間の脳は不思議だと思わされます。
そして、三つめは、
経営の振り返りをし、次の一手を決めるため
です。目標(計画)があることで、自社(自分自身)の経営に対するチェックができます。ここでは、今は亡き、伝説のコンサルタント一倉定先生の言葉をご紹介したいと思います。
チェックとは、
・決定的に重要なのは、社員に対するものではなくて、社長自身の自らの経営に対するチェックである。
・チェックとは、目標に対する実績の差異をとらえて、この差をつめることと定義されている。ところが、この定義を忘れて不達成の原因の探求に走っている。過去の数字は1円も変えることはできない。不達成の原因など、いくらでも理由はある。人間というものは絶対に自分が悪いとは思わない動物なのである。責任回避こそ、社員が最も真剣になることなのである。目標達成に必要な考え方は、「どうしたら目標が達成できるか」という対策なのである。実績は対策をするために確認するものであって、その原因を探求するものではない。
・目標というのは、わが社から見た顧客の欲求が基礎になっている。その目標と実績との差は、わが社から見た顧客の欲求と、実際の顧客の欲求との食い違いをあらわしている。つまり、顧客の欲求に対するわが社の見込み違いを意味しているのである。
最後の「目標というのは、わが社から見た顧客の欲求が基礎になっている~」のところは、ゾクゾクとするくらい本質的ですよね。
経営者にとって、自身の経営について、「いいのか悪いのか」を指摘してくれる存在はとても貴重です。その一番の存在が、実は「経営計画書」なんですね。
「経営計画書」は「経営の設計図」ではない。その通りにならないからこそ、作るべきものと考えています。
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